[home]
=======================================
カイジュウ島

[ペンギンフェスタ 参加作品]



 あ、コンテストの話かい? どこから話そうか。ん? 始めから?
 えっと、名前をど忘れしたけど、ほら、例の嫌われ者の億万長者・・・いや、億万じゃなくて億兆長者って云った方が正しいかな・・・あの、詐欺まがい、恫喝まがい、安保理まがいの強引な独占商法で儲けた、ガリバー男だよ。あ、分かってくれたか。
 こういうボッタクリ金持ちっての、何か『寄付』だの『基金』だので世界の為に財産を使って見せるじゃん・・・うん、金持ち税って名前は良いけど、結局は、それによって嫉妬を減らして命を狙われる可能性も低くなるって算段と、強引な独占商法に対する風向きを和らげるって目的でさ、太っ腹なところを見せるっての。
 んで、特に彼を嫌っているのって、技術者とか、科学者とか、要するに、独占を良い事に、質の異常に悪い製品を毎年更新しては押し売っている弊害を実感している連中なんだよね。だから、奴がコンテストの話を打ち上げた時、ついにガリバーも敵の本拠のカイジュウに乗り出したのか、って誰もが思った訳さ。とにかく、賞金が桁外れに高くて、しかも開発者の特許は侵害しないって云うんだもの。これって、普段の行動からすると破格の出血サービスじゃん。だって、奴らったら、違法コピー云々と大騒ぎしている癖に、実は他人の特許を平気で侵害してるだろ・・・これ、技術者の間では常識だな。
 だから、今度のコンテストばっかりは『金持ちの道楽』かも知れないって思った訳さ。でも、よくよく考えてみれば、ガリバーが科学者・技術者なんぞの塵芥をカイジュウする必要なんて何処にも無いよな。だから、これも、結局のところ、世間受けを狙ったように見せかけた罠と考えた方が自然だったね。実際、コンテストの参加要項に『特許の独占使用権』条項が小さな文字で分かり難い所に書いてあったもの。いや、何を隠そう、俺も、それを見落とした口だから。
 まあ、それでも、コンテスト自体が魅力的だったのは間違いないね。だって大型動物・・・要するにガリバーのようなカイジュウだ・・・それを作る方法を競うってんだから。
 いやいや、作るんじゃない、作る方法さ。それが可能そうだったら、特許料を払ってそれを作り、奴の新しいマスコットにするそうだ。自分がガリバーであるって自覚してる所なぞ、さすが悪役が板についていると言いたい所だが、奴だって、悪役カイジュウとして威張ってられるのは奴の世界だけで、帳面上の金を右から左に動かすだけの新型ボッタクリの前じゃ、猫より小さな小人だものな。ガリバーってそんな話じゃなかったっけ?
 そうそう、作る方法なんて、もちろん机上の空論さ。だいたい、奴の主催するコンテストだぜ。実際走らせると使い難かったりバグだらけだったり、やたらメモリーを食ってフリーズして役に立たない事があり得るには想定内さ。その上、ほら、大男、総身に知恵が回りかね、って云うじゃない。カイジュウが中枢メモリー不足でフリーズしたって全然おかしくないさ。だからカイジュウはSFじゃあいつも人間に負けるんだよ。

 んな訳で、1年の準備期間を挟んで、こないだ予選と本選があったんだ。予選はA4用紙1枚の要旨による書類審査で、そこで手法を事務員が大雑把に分類して、各分類ごとに候補を選んだとかいう話だ。ほら、こんなのって、結構類似のアイデアがでるだろ? だから、分類すると絞り易いんだ。
 そいで、いよいよ本選。予選を通過した10組でグランプリを争うんだけど、10組だけだから、場所も豪勢で、カナダ沖の北極圏の離れ島。エスキモーすら住んでない所だって。如何にも悪役のボスが秘密怪獣を開発する場所に相応しいと思わないかい? っていうか、実際の所、作る方法の実践とか称して本物の巨大生物を出してしまう参加者がいるかも知れないから、その場合に人や生態系に影響を与えないようにという事で、こんな氷と岩に覆われた島になったんだって・・・公式にはそういう説明さ。理由はともかく、素晴らしい景色と気候だったよ。少なくとも日本の梅雨に抜け出して、爽やかな北極圏で3日間過ごすのは悪くはないね。ま、ガリバー自身も休暇を兼ねて見に来る訳だから、それに相応しい場所と時を選んでいるに決まっているけどね。
 もっとも、噂では、ガリバーの奴、せっかくの機会だから南極に行きたかったんだって。でも、コンテストが南極条約に触れる可能性があるからってボツ。だって、下手すると南極の生態系に影響を与えるかも知れないだろ? え、杞憂かって。う〜ん、どうなんだろう? なんたって、ガリバーだからなあ。

 トップバッターはアメリカの何処かの生物学博士で、これはお決まりの遺伝子操作さ。鯨の2倍体、4倍体を作るって発想。そりゃまあ確かに史上最大のサイズの動物にはなるだろうけど、鯨じゃねえ。インパクトが全然ないじゃん。そもそも鯨って海の獣かも知れんけど怪しい獣じゃあないものな。少なくともガリバーのマスコットにはならないよ。ピノキオのマスコットにはなるかも知れなけど。
 次は自称比較惑星学のセンセイ。そうそう、こないだ ペンギナヒル の話をした、フーテン野郎さ。今回は、さすがにアヒルを冥王星に連れていくなんて云わなかったけどね。それでも地球をマイナス百度に寒冷化させるために、地球の大陽側に大きな傘を作るって大風呂敷な話をしていたな。技術的には可能だって主張していたけど、それが出来るくらいなら、こんな下らない事でなく、金星に傘を作って人間が住める温度にして欲しいね。もっとも金星は酸化が進み過ぎて光合成の最も大切な材料の水素が足りないから、テラフォーミングは無理かも知れないけど。
 3番手は映画のシナリオライターで、彼女の云うには、地球を思い切り温暖化させて昆虫を巨大化させるんだって。火星人は実はタコではなくてクモだと主張していたのが印象的だったな。これも、実際にやろうとしたら人類が困ってしまうから、現実論としては論外さ。
 その次はNASAだったかESAだったかJAXAだったかIKIだったか・・・もしかすると中国かインドだったかもしれないけど、とにかく、そこで月プロジェクトをやっているとかいう博士。中身は、月で動物を育てるって奴さ。ほら、今は40年ぶりの月ブームで、今度こそ月面基地を作ろうって話がもちきりだろ。だから、そこでペットを育てる話は流れとしておかしくはない。それに、生物実験としても、基地従事者を癒す意味でも、カナリア的な意味でも、月に長期滞在型の生物が持ち込まれるのは時間の問題だよな。その場合、基地で繁殖でする事になる、そうすると、生まれて来た動物はその環境にいきなり適応する筈だ、ってそんな話。なんでも、南極昭和基地のタロー、ジローは、あそこで生まれたからこそ、いきなり2シーズン連続越冬して、しかも二冬目は自力でエサを調達できたって話だ。つまり、寒さなんか問題じゃないなかったんだ。寒さを南極の特殊性って考える類似で行けば、月の特殊性は重力ってなる。月って重力が弱いだろう。だから、月で生まれた動物は簡単に巨大動物になるだろうって。
 5番目は何処かヨーロッパの天文台の助教授・・・今は準教授って云わなきゃならないのかな、でも、名前だけ変えても意味ないよなあ・・・ま、とにかくそんな人。天文台と来たら、連中の興味は地球外知的生命、要するに宇宙人さ。何をもって知的って云うのか曖昧なところが如何にも胡散臭いんだけど・・・だって、地球人である限りブッシュもヒットラーも知的であるって事じゃない・・・ま、それは置いといて、そういう宇宙人を見つける方が、人工的に巨大生命を作るより早いって話だった。でもさあ、これじゃ、巨大動物を『作る』って事にならないだろ。そう質問したら、センセイ曰く、作るってのは、その新たな存在が人間に認識されるようにする事と同じだから、巨大宇宙人を見つける装置を『作れ』ば、コンテストの規定にあっているし、第一ガリバーのペットにはピッタリだろうって言い抜けたよ。きっと、この先生も、月ペットの先生も、コンテストの結果なんかどうでも良くて、コンテストでアピールする事によって、主催者のガリバーからロケットだの望遠鏡だのの費用の一部を寄付して貰おうって魂胆なんだろうな。
 6番目はもっと遠く、ブラックホールの近くに行くって話。宇宙論の先生が出て来たよ。彼の云うには、一般相対論によると、巨大重力の元では空間の長さが変わるので、それでサイズを伸ばすそうだ。でも、どうやって連れて行くの? っていうか、実際の方法については、彼の説明は俺には全然分からなかったよ。理論家って、本当に空論が好きだよなあ。よく、予選を通過したものだ、と思ったけど、きっと審査員にも何を書いているのか分からなくて取りあえず通したんだろうなあ。
 7番目は趣向が変わって、地球上で達成しようって話。案を出したのは何処かの大学の植物学講座の非常勤講師の先生で、なんでも、植物には知性があると主張している人らしい。まあ、この手の『植物のセイ』・・・セイって妖精の精だよ、ほら、西遊記で悟空達が茨の山を越えようとした時に檜と松の精が老人の格好をして出て来たじゃん、あんな感じ・・・この、木の精って云うか木に宿る神様っていうか、この手の植物人格って、古今東西、話が多いし、信じている人も結構いるよね。最近では、指輪物語のエントがあるな。だから、植物に眠る何か人格的なものを刺激すれば、その瞬間に巨大動物に変貌するだろうって。楠やメタセコイアなんて、地上地下合わせれば、そのサイズは鯨や恐竜の比じゃないから、大きさだけなら一番になるよな。でもさあ、どうやって植物を刺激する訳? 植物人格説が仮に正しいとしても、技術的な手がかりなんか全く無いよ。
 で、同類の人格刺激の案として人工知能とサイボーグ・・・同じ人が2つも案を出してどっちも別々に予選通過したみたいなんだ・・・それが次。このアイデアを出したのはロボット工学の博士だけど、今まで出て来た中では一番若くて、何処かの研究所でポスドクしてるって話だから、まだ20歳代だろう。で、彼の話だけど、前置きがあって、なんでも、飛行機乗っ取りによるテロを防ぐ最善の方法は、パイロットを無くして完全自動飛行にする事だから、それに向けて各社はしのぎを削っており、その理想を極めたら、自然と人工知能なりサイボーグなりにたどり着く筈だって力説していたよ。いやあ、若いって元気があっていいね。それにしても、飛行機サイボーグを作るって話、聞いた時に、隣のトロロの山猫バスを思い出したよ。
 詳しい説明を聞いてみると、今までの案の中では一番現実性があったな。だって、鉄腕アトムのように自分で判断する可動型人工知能は、もはや動物と区別できないからね。そういう人工知能は確かに難しいけど、実現するかも知れない、って云う夢はあるよなあ。
 飛行機型サイボーグってのも、一見ナンセンスだけど、技術的な話を聞くと、そこまで夢物語でもなさそうで、義足の代わりに飛行機本体をくっつけるのは不可能じゃない。問題は技術じゃなくて倫理なんだって。だから、人間はダメで、どうせ動物を使うのなら、飛行の要領を知っており、かつ訓練可能な知的動物が良いという事で、カラスとペンギンが候補に挙がっているそうだ。そのうち、一番期待されているのはペンギンサイボーグで、何故かって、これだと海に墜落しても困らないから。上空の寒気にも強そうだし。何よりも可愛らしいじゃない。もしもペンギン飛行機が実現したら乗ってみたいな。

 もちろん俺はこれが優勝だろうと思ったさ。だから、次に俺の順番が回って来た時、やり難かったのなんのって。だって、俺のって、完全な子供騙しなんだ。
 いやさ、1年前、娘にこのコンテストの話をしたら、さっそく絵本を持って来て、
『こういうのが見たい!』
ってねだるんだよ。絵本を見れば、今昔物語から巨大なムカデと蛇が闘う絵、中国の昔話から5キロ四方の蛇を一気に食べる云う巨人の絵、孫悟空が変身して巨大な放蕩神になった絵、それから、何処かの神話から地球が亀と象に支えられている絵、そんな奴さ。俺にとっちゃ、賞金よりも名誉よりも娘が大切だから、娘の望むように特撮でビデオを作っんだ。だから、あらすじも子供向けで・・・
『昔々、地球がまだ丸くなくて、亀に支えられていた頃、孫悟空を悩ましたムカデ・・・』
 ほら、あの猿って多目怪の道士に勝てなかったじゃん
『・・・そのムカデと蛇が闘って、蛇が勝ったのは良いけど、これがまた柿の沢山実る村で悪さをするものだから、蛇専門の巨人がやって来て、この蛇を食べて退治しました』
ってな感じ。このビデオをそのままコンクールに持って行ったって訳さ。予選の用紙には、怪物たちの画像と、あと孫悟空を呼び出すときの呪文・・・禁箍呪じゃないほうだよ、いや、禁箍呪でも呼び出せるか・・・それを書いてね。
 まあ、こんなもので予選が通過する筈ないって、思っていたら、通ってしまうじゃないの。しょうがないから、本選じゃ、そのビデオを上演したよ。但し、100メートルはあろうと思える、でっかーいスクリーンを用意してね。スクリーンを用意している間に度胸もついて、余興として笑いが取れれば良いかな、って思えるようになって・・・おそらく主催者もその積もりなんだろうな・・・それで、早速
『昔々・・・』
って始めたんだ。

 その時、いや、正確には亀が出て来た時だ、突然大地震が起こったんだよ。震度5ぐらいだったかな。俺なんか地震列島に住んでるから、驚く事は驚いたけどパニックにはならないさ。でも、欧米の連中は違うんだ。かのガリバーなんか、青い顔をして
『ビデオを止めろ! 亀を鎮めろ!』
って叫んでいたぜ。まあ仕方ないかもな。えっ、なぜ亀かって? ほら、亀と象に地球が乗っているって神話、あれって、地震を説明する為に生まれた話なんだよな。日本人ならナマズだろうけど。だから、その亀が出て来た瞬間の地震じゃ、まあ、亀と思うかもな。でもねえ、あの島が本当に亀に乗っているんじゃないか、って噂する連中まで出て来たのには、さすがに笑ったよ。
 ところがさ、笑いながら、青い顔のガリバーの視線を追って振り返ると、いや魂消た。本当に巨大な亀の頭だけがにょきっと延びて、スクリーンをじーっと見ているんだ。仲間って思ったのかな。だから、俺は慌てたよ。だって、ビデオはこのあと悟空の出て来るアクションだ。興奮されたら困るじゃない。もう、無我夢中で瞬間的に判断して、あわててビデオを消したんだ。そしたら、亀さん、やっと頭を引っ込めたは良いけど、一難去って叉一難、その瞬間に大波が襲ってきたんだよね。地震には慣れてても津波は怖い。それに、如何に夏でも北極海の海じゃあ、寒くて溺れてしまう。実際溺れた奴もいたからな・・・って、心配しなくていい、犠牲者は出ていないから。というのも、津波の怖いのは引き潮の方で、それが無かったからね。会場が一回だけ水浸しになって終わり。今にしてみると津波じゃなかったんだ。
 ま、ともかく、緊急避難って事で、全員がヘリコプターに移って・・・数は充分にあったよ、だって元々全員がヘリコプターでこの島に来たんだし、その同じメンバーが荷物機材を捨てて行くんだもの・・・それで上空に上がって改めて下をみると、なんとまあ、島がゆっくり移動しているんだ。あの島って、自然の島じゃなかったんだな。確認の為に、あとからライバル会社の有名なマップをみると、島なんか何処にも無い。いや、参った。

 一体、ガリバーの部下の余興なのか、あるいはライバル会社のスパイが仕組んだのが、それとも島が実はロシアの潜水艦空母でガリバーと取引中だったのか、はたまた、島が本当に巨大な亀で、地球温暖化のせいで長い長い冬眠から目を覚ましたのか・・・その場合の名前は『氷河期を生き延びた亀』略称『ヒョウガメ』って呼ぶのが妥当かな、ま、とにかく真相は闇の中さ。
 ともあれ、それで俺のビデオが
『カイジュウ呼び出し呪文』
と認定されて優勝しちゃったんだ。
 膨大な賞金かい? そんなもの、貰っていないよ。
 ほら、始めに云っただろう、特許どうのこうので困ったって。だから手続きを始める段になって、特許になるような技術を何も持たないので困った困った。だって、賞金の引き渡しは、特許の独占使用契約書と交換でっていう条件なんだもの。そんな事、細かい字で書くか?!
 まったくカイジュウしたね。

written 2007-10-21
===========================================