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サンタと相撲と新聞の物語
行幸の慰みに、恰幅の良い6人とひとりの美女が舞踊・相撲などを披露していると、突然地面が揺れ、ひとりが甲板から投げ出された。その瞬間、それまで船の下を敷き詰めていた明かりが消え、車の音だけが響き渡った。12月25日は天帝の降臨する日。・・・
いずれも3題縛りで書いたものです。縛り(完全には満たしていませんが)の内容は
(1) クリスマスの朝、家でサンタ(サンタの格好をした男)が死んで(*)いるのを発見する。
(2) その日の朝刊はなぜか配達されなかった。
(3) 登場人物に相撲好きがいる。
(*) なお、誰も死なないという条件も個人的には課しています
・・・私たちが大相撲名場面集のビデオを見ていると、突然停電になって、庭に何か落っこちてきた。外に出ると菜園の大切な野菜を盗み食う鹿のそばで赤い服を来た老人が気絶しており、真上の高圧送電線には橇らしき物がぶら下がっていた。停電の復旧には12時間かかり、お陰で…そう、お陰でと云うべきだろう…テレビはおろか新聞も出勤も無い静かなクリスマスの朝を迎える事が出来た。
1. お願いは何?
2. そりの行方
3. ロースハム
4. 水滸伝補注
5. サンタずもうッス
6. おっきいのちょうだい
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1. お願いは何?
夕闇に紛れて何処からともなく現れた布袋腹の老人は、長い白髭に赤い服をまとってずだ袋をかつぎ、まるでサンタのようだった。いや本物のサンタだったかも知れない。その証拠に、彼が歩いた僅かばかりの時間に、多くの見知らぬ者から声を掛けられた。
一人目は母小連れだった。子供が
「あ、サンタさん!」
と言って近づくと、老人に答える隙を与えずに母親までも近づいて
「この誘拐犯め! その格好で子供を騙してその袋に押しんで連れ去ろうったって、そうは問屋がおろさないから! 」
と言いつつ赤い老人のずだ袋を奪い取ろうとした。これを奪われては明日から生きて行けない。老人は必至で逃げ出した。幸い、母親の剣幕に恐れた子供は老人と反対方向に逃げたので、母親も子供についてくれた。
二人目は大きく『ピース』と書いた緑の服を来てる男だった。
「こら! サンタの格好なんぞして!! 不必要は贈り物で物を浪費し、ゴミをふやそうと目論んでいるな。そうはさせるものか!」
目の血走った男は、そう言ってずだ袋を奪おうとした。老人が必至に逃げたのは云うまでもない。幸い若い男は酒に酔っているようで、難なく逃げる事が出来た。
三人目は初老の主婦らしき女だった。つかつかと近づいてくるなり、いきなり指差して
「いたわね! あなたせいよ、うちの人が煙突を家につけたのは!」
昨年建った洋館の住人らしい。洋館なら広い庭は前提だが、その家は敷地がどう見ても100平米程度しかない。
「どれだけ暖房費がかかったのか分かってるの! これ以上被害者を増やす訳にはいかないよ!」
そう女はまくしたてて、ずだ袋に奪おうとした。幸い、彼女の視界に井戸端会議仲間が現れたらしく、女は突然上品な声で
「これはこれは、先日はどうも」
と挨拶を始めた。お陰で老人はそこを離れる事が出来た。
四人目は教師らしき男だった。
「困るんだよなあ、君みたいな宣伝をされたんじゃ。良い子にさえすれば、云われた通りの勉強だけすれば、望んだ物は努力無しで手に入ると思っている馬鹿がどんどん入学して来て、我々はまるで幼稚園の先生じゃないか」
大学の先生のような言い分だが、もしかすると塾講師かも知れない。男は
「君、その袋は止め給え。日本を破滅に導く」
と言いつつ、ずだ袋を奪おうとした。幸い、目の前を彼の学生らしき者が通りがかったらしく、教師は「これ、**さん」とそっちに声をかけたその隙に老人は逃げる事が出来た。
五人目は乳母車を押しながら痴呆らしき老人に付き添っている女性だった。
「サンタが幸せを運ぶって? サンタが介護費を払ってくれるの? サンタが保育費を安くしてくれるの? サンタがサービス残業を無くしてくれるっての? こっちはくたくたなのよ。そんな格好で人をたぶらかす暇があったら、せめて子供の面倒ぐらいちゃんと見てよ!」
そう云うなり、憔悴した様子の女性は、彼を捕まえようとした。幸い、痴呆らしき老人が別の通行人に抱きつこうとしたので、それを止めるべく女性が離れた隙に老人は逃げる事が出来た。
六人目はエンジニアらしき男だった。
「お前だな、あの時、俺の設計図を盗もうとした奴は! サンタの格好をすれば簡単に泥棒出来ると思ったら大間違いだぞ!」
彼もまた、ずだ袋を奪おうとした。幸い、「主任〜」という声がして、男が振り向くその隙に、またも老人は逃れる事が出来た。
七人目は老婆だった。いきなり指差して
「いたいた、あんたあ、去年、酷いもの送ったねえ! 孫がクリックしたら、パソコンが壊れてえ、最悪の年末だったあ。ここで見つけたのが百年目、その袋の中は毒か爆弾に決まっている!」
老婆はずだ袋を奪おうとしたが、幸い、脚を悪くしていたらしく、老人は直ぐに逃げる事が出来た。
八人目は職務質問で暇をつぶす警官だった。
「これ、その不審物を持って何処へ行く」
単刀直入な質問に老人が黙っていると警官は続けた
「答えないか! お前、何処に住んでおる!」
職務質問には答える義務はないが、答えなかったら当然怪しまれる。警官が
『不審人物発見』
という連絡を本部にしようとしたその矢先、幸い「痴漢!」という黄色い声が聞こえて来て警察があわててそっちに行ったので、老人は職務質問から逃れる事が出来た。
九人目は冷たい感じの女性だった。
「なんであんたは男なの! 贈り物で子供を喜ばせるのは男、育児の重労働をするのは女って誰が決めたのよ。え、教えてくれない!、ちょっと、あんた、、」
だが、これも長くは続かなかった。女の待っていたバスがバス停に近づくのが見えたからだった。
十人目は初老のスマートな体の男だった。隣の男と
「初場所は凸凹山だな」
「なに凹凸海の連覇に決まっているだろうが」
と角泡飛ばして議論していた。隣の男が、
「だいたい、凸凹山は、あのサンタの体より小さいじゃないか」
と続けるのに怒ったのか、このサラリーマンは老人に近寄り
「きみ、なんだね、その肥満は。関取でも無いくせに、太るなんておこがましい、 双葉山・千代の富士より太った奴は屑だ。肥満は医療費の無駄、サンタの服で誤摩化そうったって、そうはいかんぞ。プレゼントをくれるどころか、お荷物じゃないか! 」
老人は歩き続けた。
「サンタがあきれたね、肥満という悪を世の中に推奨して、なおも皆に喜ばれるんだから、悪魔そのものだろうが。こら、尻尾を出せ!」
そう怒鳴って、男は老人の服を脱がそうとした。幸いにして、隣の男が
「おい、そんな奴ほっとけ」
と、さっさと歩き出したので、老人は事なきを得た。
十一人目は若い女だった。
「あはっ、ダッサー。サンタの格好してるけど、しょせん肥満オヤジじゃん」
老人が無視して歩き続けると、女は挑発してきた
「ふん、何よ、満員電車じゃ皆の迷惑だって分かってるの! なんであたしたちが、あんたみたいなデブと同じ運賃払わなきゃならないの? なんで、飛行機の手荷物には重さ制限があるってのに運賃は重量制じゃないの!」
やはり老人は歩き続けた。
「ちょっと、あんた、逃げちゃ駄目。あんたのせいよ、オヤジがみんな肥満になるの。あたしの親父だって、減量しなさいって言っても、サンタみたいだからいいじゃないか、って、まったく、家族の身にもなってよ。ナウいサンタはスマートなものよ」
そう絡んで、女はサンタを捕まえようとした。幸い、イケメンの若い男が通りがかったので、彼女がそちらに気を取られる隙に老人は逃げる事が出来た。
十二人目は課長風の男だった。
「やっと見つけた! お前みたいにトナカイを宣伝する奴が居るから鹿や猪が野放しにされるんだ。昔は殺して食えたのに、今じゃ黄色い声の連中が、可愛いって、止めやがる。勝手に里に出没しやがって、残飯だけならまだしも、新聞まで食やがる。どれだけ我が社が被害を被った事か!」
この男も老人に掴みかかった。幸い彼の携帯が鳴ったので、今回も老人は虎口を逃れる事が出来た。
十三人目はマスコミ関係者らしき人物だった。
「失礼します、クリスマス取材をしているものですが、ちょっと良いですか?」
老人が歩き続けると、記者は老人の気を引くべく
「その袋の中はなんですか?」
とつきまとい始めた。それでも老人が歩き続けるので、より強く気を引くべく記者はサンタの悪口を言い始めた。
「クリスマスプレゼントってのは、現代的には悪い存在って事を御存知ですか? パソコンビールスの担い手だったり、環境の敵だったり、労働の敵だったり、治安の敵だったり、男女平等の敵だったり、社会福祉の敵だったり、、」
それでも老人が無視して歩き続けると、マスコミ関係者は諦めたのか引き下がった。
…………
…………
=== Ending A ===
日本語が余り得意でないその老人は、くたくたになって仕事場に着くと、それでも例年通りの作業を始めた。それは、彼に向けられた「願い」を、彼の理解出来る範囲で、忠実に実行するという事。…そう、誘拐事件を起こして視聴率増加に寄与し、不要なプレゼントを増やして内需を拡大し、暖房費のかかる寒波を呼んで石油元売りを潤し、子供の聞き分けの良くして教育委員会を喜ばせ、サービス残業を増やして貿易黒字を伸ばし…。
全てが終ると
「ふう、今年も良い事をした!」
と呟いて、死んだように眠り込んだ…息もせずに。
=== Ending B ===
老人はとうに目的地に着いて、座って考え込んでいた。夜が白む頃、彼はひとこと
「もはや、この国ではサンタは要らないようだ。サンタは死んだ」
そう言って、赤い服を脱ぐなり、フィンランドに帰って行った。新聞受けに配ったプレゼントを全て回収して。
written 2001-1-5
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2. そりの行方
その日の未明、このプロジェクトで最も忙しい男が軒先で倒れているのが見つかった。理由は不明であり、一説によれば、配達の前夜ですら仕事が終らないほどに個人情報の収集が難しくなって過労で倒れたのだとも、あるいは1億人を越える子供たちの尊敬を一手に集める人望を妬んだ輩が毒か放射能を盛ったとも、単純にノロウイルスに罹ったためだとも噂されているが、この種の事件の真相は常に闇と決まっているのであり、詮索しなくてもよろしい。プロジェクトのメンバーにとって大切な事は、そんなワイドショー番組ではなく、今すぐに必要な御者の代わりが世界中どこにも存在しないという深刻な事実のみであった。というのも、賢い犬と違って、馬鹿なトナカイは、一頭ですらラップ人以外の者の手に余るのであり、複数のトナカイとなれば、経験を積んだトナカイ管理人ですら同時に橇につなぐのが困難だからだ。プロジェクト用の四頭立てトナカイ橇をさばくともなれば、朝方倒れて見つかった男以外に不可能だった。
この事態を打開するため、急遽、トナカイ橇以外の手段が考慮された。いや、トナカイ橇の御者を捜す事を始めから諦めた訳では無い。世界の御者のうちここ二三年に再任されるぐらいのパワフルな名人…ジョージとかトニーとかジュンとかいう名前だったが…に急いで試運転を頼んだのは事実である。しかるに、誰が御者になっても、筆頭トナカイどうし…シーとスーの2とう…が喧嘩を始めて、橇が全く動かなかったのだ。これら「名人」御者たちはシーをスーの横かその前に…彼らに言わせれば民主的に…配置したのだが、一体、スーのちょっかいを押さえる事が出来ない癖にそんな配置をしても無駄な事は、プロジェクトメンバーの下っ端ですら知っている事であった。ちなみに朝方倒れて見つかった男は、必ずスーを先頭に持って来て、しかもシーがちょっかいを出す前にシーを叱りつけると云う、動物虐待ギリギリの手綱捌きを見せていたそうだ。トナカイが決して理論通りには動かないと言う事すら分からなくて、よくぞ名人と呼ばれたとは誰でも思うだろうが、しかし、彼らを名人に選んだのは他ならぬ国民だから、彼らだけを責めるのは酷と云えよう。
これら「名人」御者たちがトナカイ沼にはまっている間、プロジェクトのメンバーたちはトナカイ橇以外の手段を次々と試した。誰もが思いつくのは犬ぞりであろう。しかしながら、例年この季節はオーロラ観光客が犬ぞりを借り出してしまうので、急に使える犬が全く残っていなかった。あちこち当たったあげく僅かに一ヶ所が三流の犬ならいるとの返事をよこしたのみである。三流の犬ではこのプロジェクトは不可能だ。というのも、このプロジェクトはそもそもトナカイ橇でなければならないという暗黙の了解が世界中に浸透しており、ワンワン騒ぎ立てる駄犬の姿を見られると世界中が恐慌に陥る恐れがあるからである。
次に考えられたのが馬橇である。人類初めての南極点到達の話を御存知なら説明するまでもないが、馬橇というのはトナカイ橇よりも信頼性があり、この危急の際には確かにトナカイ橇の代わりになる。しかしながら、アムンゼンと南極点を競ったスコット隊が帰還出来ぬまま馬もろとも全滅したが歴史ゆえに馬橇は人気を落とし、この緊急の用に間に合う馬は一頭もいなかった。先進国においては、馬は甘やかされて愛玩用か競馬用かオリンピック用としてしか存在しない。とても橇を曵くなどという重労働には耐えられないのだ。馬車馬とは死語であって、代わりに人間が馬車馬のように働いている。
最後に考えられたのは猫橇である。猫が橇を曵く図はとても想像し難いが、それは誰も実験していないだけの話で、試す価値があると考えられた。というのも、本プロジェクトにおいては、泥棒のように全てを夢のうちに完了する能力と、忍者のように屋根を伝う敏捷さ、そして暖炉で灰まみれになる事を厭わない健気さが必要だったからである。何よりも、猫の手も借りたい時ではないか。都合の良い事に、寝る事を本職とする猫は夢で世界を駆け巡る。それこそ一瞬のうちに。
さっそく、暖かいデスクの前で丸くなっていた6匹…アサ、ヨン、マイ、キョージ、ケイ、サンと言う名前がついている…をひっつかまえて橇に仕立てた。彼猫らは、かの夏目漱石の吾輩猫の血を引くのか、言語理解に優れ、偉大なる御者の言う事は120%理解するというインテリ猫であったから、橇には最高の猫材である。もっとも彼猫ほどにインテリでなくとも記者会見の行間ぐらい理解出来よう。記者会見を開かなければならないような政治家・警察・金亡者は本能でしか行動しない。
いかに橇に最適のインテリ猫とはいえ、相手はやはり猫である。まっとうな人間の言う事を聞く筈が無い。往々にして御者に楯突いたりもする。それを補う為に餌がある。いや、好物だったら鞠でも毛糸でも紙袋でも何でも良い。幸いなるかな、この6匹、いずれも話題と利益と海外出張に近寄る癖があって、あっという間に欧州、北米、オーストラリアをこなした。さすが日本のビジネスマンとOLに可愛がられているだけの事はある。
残るは日本とラテンアメリカ。ちょっと躊躇したくなる距離ではある。餌は日本のコタツと南米の暖かい気候。御者はシンとかいうインド人と紛らわしい名前を持った男だが、れっきとした日本男児だ。もっとも、その名前のせいか、インドインドと騒ぐ癖がある事は否めない。ただし、インドはこのプロジェクトと全く関係なく、橇は真っすぐシベリア経由で日本に向かった。
ところで、この6匹、橇を曵くのは実は今回が初めてではない。10年昔か15年昔にも橇を曵いた事がある。しかるに、御者が放漫だったせいか、橇がぜんぜん進まなかったのである。アサとヨンが仲良く左右に分かれて先頭を走ろうとすると、そのすぐ後ろからマイが先頭に割り込もうと、ある時はアサとヨンの間に顔をだし、ある時はアサの左に回り込んで、その度ごとにアサが左に寄ったり真ん中に寄ったりとフラフラしたのだ。この混乱に拍車をかけたのが後方をのろのろ走るケイとサンで、他の4匹がなんとか前方を向いているのを無視してサンは強引に右に右に引っぱり、ケイに至っては前後左右見境無く脇見をしていたのである。全ては御者が悪い。その証拠に、今度の御者の元では6匹とも足並みが見事にそろった。御者が違えばここまで違う。
シン御者のやり方は極めて易しい。アサとヨンを東西の横綱に格付けし、以下、マイ、サン、ケイ、キョージを東西の大関・関脇に格付けしたのである。強圧的な任命でなく、今流行の格付けと称したところが如何にも番付表のようで心憎い。さすが名門御者の三代目、頭は決して悪くない。その格付けに満足するところを見れば6匹共も大相撲のファンと見える。実際、相撲の記事は取材費用が安上がりで儲けが大きい。
こうして橇の序列をきちんと決めると、次は餌。以前の御者が失敗したのは、餌をきちんと見せなかったからに違いなく、ここはシベリアに埋まっている暖房の源で6匹を釣る。猫にこたつ、そのプラスアルファが開発利権となれば、大企業…じゃなかったファットキャットの6匹が駆け寄らない筈が無い。そうしておいて、最後に利権大国を間近に見せれば最短距離で日本に行ける。都合の良い事に、この6匹、北朝鮮に招待された事もあり、しかもこの国は記事のネタが豊富に眠っているから、喜んで通過する筈だ。まさに最短距離。
でも、世の中そこまで甘くはない。事情が変わって北樺太に寄る事となった。その理由は利権への未練とか。そもそもシベリアの開発利権なんて存在しなかった事は、同じ穴の狢ならぬ熊のプーさんがしっかり宣言している。残る筈もない未練が残ったというのは、いかに猫が目先の餌にとらわれる動物とはいえ、表向きの理由に相違なく、実は本当の理由がちゃんとある。それは北朝鮮。ここを大きく忌避するのは御者の方針と見えた。
それにしても、通れる筈の北を避けるばかりか、射程内回避と称して大きく北樺太にまで迂回したんだから、御者の力は馬鹿にならない。否、御者は何もしていない。ただただ、アジア女性の拉致強制売春監禁に目耳を塞いで、日本人の拉致優遇監禁だけをオウムのように繰り返しただけの事。オウムとの違いを全く見いだせないが、猫太6匹、雁首そろえて大迂回の樺太経由で日本に入った。猫の通り道を限る方法は餌に限らない。ハリボテの犬だって良いのだ。
シベリアから樺太経由で日本に入るには、樺太で舵を大きく右に切る。進路日本は右、北朝鮮のお陰で大きく右だ。そのとき同時に猫の運命も尽きたらしい。主人の言いなりになった以上、もはや猫をは呼べないから。インテリ猫6匹、そろってご臨終とあいなって、肝心の朝にまともな新聞が配達されなかったのは言うまでもない。
ちなみに最後に残った南米は、別に仕立てた猫ぞりが配達に出かけたそうだが、これは別の話。なんでもジョージ像の鎮座するワシントン上空が飛べなくなって、米国西海岸シアトルから大きく舵を左に切ったという。そう、いま、南米は左。
written 2006-12-2
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3. ロースハム
少々古いお話です。
肉屋でハムを買った事のある方なら、ハムにも上中下があるのは御存知でしょう。その中の高級品がロースハムでクリスマスに食べるものですが、このロースハムにも最近は上中下があるようでして、肉の角力屋でも流行に負けずにロースハムの色々な種類を置いております。とはいえ、一般庶民の買うのは『並』と云う名の『下』ロースです。というか、ロースというだけで、他の肉より高級なのですから、それで見栄は十分に張っている筈です。肉の角力屋、中や上を売ろうと宣伝を打ったり値段を目まぐるしく変えたりあの手この手を使っていますが、中々成果があがりません。
そこで考えたのが、しこ名を付けるという事。特上・上・並というありきたりの名前を止めて、大関ロース、関脇ロース、平幕ロースと名付けました。何故横綱と小結が抜けているかといいますと、将来ロースの種類が増えた時に下級に増えるのではイメージを落とすからです。なるほど、普段平幕ロースを食べている人の多くは、関脇どうしようかな、と肉の土俵を去りがたく思っているのであって、こんな時に小結が売り出されたら、これは喜んで飛びつくでしょう。なかなか良く考えてあります。
こうして売り出した大相撲ロース、その売り上げはともかく、名前だけはたちまち街中に知れ渡りました。でも、油断は禁物、うっちゃりで、発売を中止せざるを得なくなりました。というのも、このロースハムのせいで関取の体が豚に見えてしまったという、苦情とも冗談ともつかない話が肉屋の主人の耳に入ったからです。なんせ、こんな名前をロースハムに付けるぐらいですから、肉屋は大の相撲ファン、関取の名を辱めるような真似をどうして彼が続けられるでしょう? 宣伝の為なら恥も外聞も無い大手ハム会社とは違うのです。
大関、関脇、平幕の名前をたったの5日で止めてしまった肉の角力屋、単に止めれば笑い者ですぐに忘れ去られますが、どっこい土俵の真ん中で踏みこたえました。そう、次なる攻めを打って出たのです。名付けて三択ロース。食卓で好きなロースを選んで下さいという意味です。並の代わりに上を、上の代わりに特上を買わせるなどというケチな事はやめて
『クリスマスの朝に三択ロースはいかが?』
とのキャッチフレーズで、上中下全部のロースを買わせようというのだから、志が大きいというか、能天気というか、スーパーコンビニ全盛時代に徳俵に残って頑張っている2枚腰はただ者ではありません。
相撲を愛するが故に大相撲ロースを止めたという美談と共に売り出した三択ロース・ハムセットは、その手軽さが効いて大当たりです。相撲の美談は新聞ネタにも相応しく、角力屋が宣伝を全くしなくても、新聞が勝手に宣伝してくれます。こうなると、角屋としても、何時もチラシ配布でお世話になっている新聞配達店にお礼にいかねばなりません。もちろん三択ロースを携えて
「生ものですのでお早めにお召し上がり下さい」
という前口上を忘れずに。そう、これも宣伝です。早めに食べて貰って、更に褒め記事を増やしてもらい、クリスマスの注文を増やそうともくろんおります。相撲で云えば、給金直しの勢いで、そのまま二桁白星を狙う、という所でしょうか。ただ、残念な事に、これは捕らぬ狸の皮算用に終りました。というのも、噂のロースハムセットを新聞配達店が貰えば、配達人と一緒に食べようという話になって、そのまま忘年会まで三択ロースが冷蔵庫にしまわれるのは自然な成り行きだからです。土俵際の詰めが甘かった。
そして、忘年会と云えば、新聞休刊日…翌朝の配達の無い日…が選ばれるのは自然な成り行きで、その年は天皇誕生日が休刊日でした。三択ロースに舌鼓を打った配達店の主人のなかには、忘年会の翌日に肉の角力屋に顔を出してお礼を言う者も当然おります。書き入れ時で過労気味の角力屋の主人、その時は頭が回らず何とも思いませんでしたが、夜になってはたと重大な事に気付きました。そう、新聞配達店といっても、各社ありますから、一ヶ所ではありません。配達店の中にはロースハムを冷凍庫でなく冷蔵庫に入れる所も出て来ます。というかそれが大多数でしょうか。それを心配したのです。その日は当日配達の注文が大量に入っていますから、未明のうちから駆け出して、配達店の一つ一つを叩きます。
ここまで書けば、読者の皆さんにもおわかりでしょう。そう、古くなった三択ロースはノロウイルスに汚染されていたのです。配達員の殆どがダウンして、新聞は朝の配達の間に合わず、家によっては9時頃になってしまいましたが、これは致し方ないことです。人気のない配達店で食べ残りの三択ロースを見た角力屋の主人、一目見るなり
「サンタカローシ!」
written 2006-12-31
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4. 水滸伝補注・その74
天巧星浪子燕青、梁山泊三十六星の末席ながらも、機転とスマートさは水滸伝随一と言われ、それに加えて素晴らしい身のこなしと小型弓矢の上手さ、現代に例えればジェームズボンドかオースチンパワーズか。その彼が天下一を誇る武芸に相撲があって、泰山南麓の東嶽廟で天下一の誉れ、その時のお話は水滸伝第74回に記されています。
泰山は中国民間信仰たる道教の総本山ですから、その守護たる東岳大帝の誕生日(旧暦3月28日当たり)は、仏教で言えば花祭り、神道で言えば秋の大祭、キリスト教で言えばクリスマスと言ったところ。前後3日間を縁日と称して、その大きな祭りは現代まで延々と続いています。当然ながら毎日のニュースを載せた瓦版…現代風に言えば、コミュニティー新聞…が縁日の前後に配達されます。以下は、その版元のお話。
水滸伝の舞台の年は、太源府出身の横綱・任原という巨漢が、名誉横綱の資格たる3連覇を何十年かぶりに達成するか、という注目の年です。それだけに、瓦版のスタッフにもそうそうたる顔が揃いました。張家の太郎に帑玖(ドク)家の二郎、舛(マイ)の五郎、蕎慈の七郎、罫(ケイ)九郎、桟十郎の6名、皆、泰安州の童子試(科挙の前試験)に一発で受かった秀才(童子合格者:生員ともいう)です。瓦版の隆盛、ここに極まれり、と言ったところでしょうか。
「舛先生、今年の縁日も盛況でしょうねえ」
「当たり前だ。天下の泰山だからな。市内近郊にある千五百軒からの宿屋がほぼ満員になる筈さ。参詣客は十万は下らないね」
水滸伝の当時から千五百軒の宿屋が満員だったそうです。この規模は、到底手書き掲示板だけで日々のニュースを伝えるのに間に合うレベルではありません。
「今年も見せ物は多いんですか』
「去年より更に増えたんだ。武芸十八般の見せ物から演芸、対抗試合などに至るまで、毎日盛りだくさんさ」
「ありゃあ、そんなに多くっちゃ、見逃しちゃいそうだ」
「その為の瓦版ではないのかね」
「そうでした、そうでした。いやあ、正直な話、瓦版で毎日の動きを追わないと、大切な行事を逃してしまいますよ。でも書くのは大変でしょう?」
「いやいや、いったん版が出来たら、あとは刷るだけだから、何部になろうと簡単だ」
「へえー」
「これが印刷という奴だ。全くもって素晴らしい発明だね」
中国宋代といえば、火薬・羅針盤・活版印刷の3大技術が西洋に先駆けて完成した年代。特に活版印刷は北宋時代の出版が確認されていて、水滸伝の時代に試験的な瓦版があってもおかしくないのです。
さて、今年のスタッフも取材を始めましたが、この取材、前年までの取材とはちょっと違うようです。なんせ、秀才とは書斎に閉じこもって勉強するのが仕事ですから、歩いて稼ぐという事を知りません。昼はデスクに座って召使いをお偉いさんのご機嫌伺いに走らせ、夜は宴席に侍って噂話を聞くというのが彼らの取材です。
「罫九郎君、今年は任原の3連覇が掛かっているねえ」
「そうそう。また太源府からわざわざ来るんだものな。偉いものだ」
「いやいや、今年1年はずっと近くの街で弟子に稽古をつけていたそうだ」
「へえ、…そりゃまた、やる気満々じゃないの」
「知らなかったのかい。今じゃ天柱を持ち上げる男って自称しているぐらいだから3連覇を狙っている事間違いなしだね」
「なるほどなるほど。…さあ、教えてくれたお礼にもう一杯、、、お、っと、っと、っと」
と、こんな具合です。
6人も毛色の違う秀才がいて、その宴会ネットワークに引っかからない情報がある筈がありません。ともかく、書斎と宴会場の往復だけで童子試に上位合格したのだから、それで十分だと心得ています。もちろん彼らとて国家公務員上級職の卵ですから、前例を尊びはしますが、それは同じような秀才たちの事績であって、昨年までのスタッフのような御用聞き連中の事ではありません。御用聞きは言わばブルーカラーです。宴席に侍るホワイトカラー連中が蔑視している仕事です。
「帑玖二郎君、なんで、瓦版みたいな下賎な仕事を引き受けたんだ」
「君、何をいう、これぞ次の時代を見極めたエリートの仕事じゃないか。しかも年々読者が倍増しているんだ」
「でも、所詮は御用聞きじゃあないかね」
「おいおい、今までの連中と一緒にしないでくれ、我々がやるからには、これは文章の仕事だぜ」
「じゃあ、なんで、去年まで生員が一人もいなかったんだい」
「そりゃ大したニュースが無かったからさ、今年は任原の3連覇があるじゃないか」
「ああ、まあ、そんなものかなあ。それなら、、、、記事にも名文が必要かもなあ」
歴史的事件のあった日は、瓦版の記事にも歴史的価値が出て来ます。そして名誉横綱の誕生は確かに歴史的瞬間です。だからこそ、名誉欲の塊たる秀才がスタッフを占めたのです。とはいえ、生員がブルーカラーの真似をする筈がありません。取材もホワイトカラーのやり方を踏襲しているだけ。歩き回るだなんてとんでもない!
もちろん、その秀才式取材でニュースが不足すれば彼らもやり方を改めるかも知れせんが、片面1枚刷りの瓦版ごときでそんなことは有り得ません。瓦版より遥かに紙面の多い現代日刊紙だって記事不足の心配がないではありませんか。
「蕎慈先生、今年の縁日には女楽(今で云えばアイドル歌手)が来るそうだけど、彼女たちは当然記事になるのでしょうねえ?」
「ははは、員外どの(員外とは大金持ちの事を指す)はあちらに興味がおありと見える」
「へへへ、そりゃあ、やはり。それで記事の方は? 例えば、生い立ちとか」
「簡単な紹介程度でしょうかねえ」
「それは、また面妖な」
「いやいや、紙面が足りませんよ。今年は相撲記事で埋まりますから」
片面1枚刷り、しかも印刷精度の関係から細かい文字など到底使えませんから、長い記事が書けるのはせいぜい1本、他は短い箇条書き程度に済ませなければならないのです。その最優先の記事はもちろん相撲です。それはこの年だけではありません。数ある見せ物・行事のうちでも、この時代にもっとも重要なのが相撲だったからです。水滸伝によれば、相撲の観衆だけで数万人、特上席からは泰安州の知事まで観戦していたそうで、当時の人口・経済規模を考えればこれが極めて大きなイベントであった事が伺われます。
「残念ですなあ。どうにかなりませんかねえ、、、まずはこの白銀10両をお納め願いましょう」
「そうですなあ、では、彼女たちの生い立ちは、員外どのだけにこっそりお知らせしましょう。そのほうが、よろしくありませんかな」
「それはそれは、、、、、その時は改めてお礼でも」
情報は金なり、という事情は今も昔も変わりません。否、通信手段の少ない昔の方が遥かに情報は高価でした。
女楽の記事すら葬ってしまうという、一番の話題の人、横綱・任原がやって来ました。200〜300人からの弟子を引き連れています。しかし、それほどの規模でも、彼の所に取材には行きません。やはり十年一日のごとく知事の元へ召使いを走らせます。もちろん手みやげ付きです。
「私どもの主人より知事閣下にこれをご挨拶代わりに」
「いつも済みませんなあ。後で渡しておきましょう」
「そして、これは執事殿に」
「さすが張太郎先生、いつも心づくしをかたじけない」
「ところで、今年の相撲で何か面白い話でもありませんかなあ」
「ああ、なんでも任原の奴、今年は自分から賞品をごっそり提供してましたな」
「へえー、あのケチ野郎がですか? 今まで貰った賞品をお裾分けして配る事すらしなかった癖にねえ」
過去2年に渡り、任原は泰山のみならず、他の相撲大会でも勝ち続け、ぬれ手に粟の賞品を獲得して来ましたが、それを身内以外の誰にも分配せずにがめ込んでいます。見た目こそ、サンタのオッさんみたいな布袋腹と髭ですが、いかんせん、やる事はサンタの正反対、人読んでスーロクタンサか様袋布か。要するに酷い奴です。だからこそ、快男児の燕青が敵愾心を燃やして参加を決意したのです。
「そうさ、意外だろう?」
「意外も意外ですよ。…じゃあ、任原ってそんなにケチな野郎じゃなかったんだ」
「君、甘いよ。彼が賞品を出した所で、その賞品は全部彼のものになるってオチさ」
「あ、そっか。任原の野郎、余程自信があるんですね」
任原の自信は当然記事にも反映されました。ただし、横綱を貶す事はけっしてありません。長いものには巻かれよ、の諺通り、『挑戦者を勧誘して大会を盛り上げようと、今年は横綱も自腹を切った』という書き方です。こういう記事が出るから、何も知らない読者は無能政治家に感心するのです。
そんな中を我らが浪子燕青がやって来ました。相撲大会の2日前の事です。
「桟先生、今年の目玉はやはり…」
「そりゃ任原に決まっている」
「任原と言えば、そうそう、任原の額(タイトル防衛者を褒めたたえる看板)を割って挑戦を表明した奴がいますよ」
「いつの事だい」
「今日午後の、日が傾いた頃だそうです」
「そりゃ、今日の特ダネだ! で、相手は?」
瓦版は夜に印刷され早朝未明には配られます。というのも、これらの見せ物は、いずれもお日様の出ている時間に行われ、それらの予告記事と結果記事を載せるとなったら、早朝配達しか有り得ないからです。そんな訳で、夜の飲み会でニュースを仕入れても間に合うのです。
「それが噂によれば、ちっぽけな男なんですよ。身の程知らずか、自殺願望者か、失恋で頭がおかしくなったのか、、、」
「ちっぽけって言っても任原と比べての事だろう?」
「そうかも知れませんねえ」
「いや、でも、ちっぽけ、ってした方が瓦版にはいいな」
「そうですよ、先生、そうですよ。せっかくだから優男風とでもして」
「分かっておる、嘘にならない程度に書いておこう」
そうして出て来た翌朝の瓦版には、あたかも生員並みの体つきかのようなイメージを想起させますが、具体的なサイズは何処にも書いてありません。さすが文章で飯を食う連中だけのことはあります。これなら若い女性までもが彼の一目見ようと…その最後を見届けようと…相撲場まで押し掛けるでしょう。しかし、怪我の功名と云うのか、この記事が燕青の記述にぴったりあってしまったところが不思議なところです。ちなみに、この種の記事を書く記者は、あすなろ物語のライバル記者に至るまで延々と続いています。なるほど取材なんかしなくても、書き方次第で新聞の用は十分に足すのかも知れません。
こうして6人の取材執筆陣の元で出され続けた瓦版ですが、明日はいよいよ相撲の本番、ここから先の記事は特に気合いを入れて書かなければなりません。前夜、この6人が集まって相談をします。
「すると、挑戦者は、今朝の瓦版に出した小間物屋(燕青の変装姿)だけか?」
「そういう事だ」
「あれ? 小間物屋と一緒に泊まっているという奴は? すごい体らしいけど」s
「聞いていない」
「そんな奴いたのか?」
「病気持ちって噂だな」
「誰も知らないのか?」
「知らないよな?」
「知らないって、小間物屋すら俺たちは見た事ないじゃないか」
「負け馬なんて知る必要ないだろう」
「ともかく、明日の記事は易しいな。『挑戦者に名乗りに挙げるのは、果たして小間物屋か同室の男か』って書けば」
「それで決まりだ」
「ああ」 「いいぜ」 「異議無し」
「じゃあ明後日の記事もやっちゃうか」
「勿論さ。結果は見えているし、俺たちも明日は酔いつぶれたいしな」
「勝つに決まっている任原のデータはばっちりだ」
「勝ち方は?」
「心配ない。知事の執事の情報によれば、知事が相撲を預かりにするらしい」
「どうやって」
「任原が受け取るのと同じだけの賞品を小間物屋も貰えるようにして、しかも、役人に取り立てるって話を持ちかけるそうだ」
「さすが、警察だな。シナリオがばっちり出来てるじゃない」
「でも、小間物屋が死なないんだったら、奴の生い立ちぐらいは知っておく必要があるかな」
「そんなちっぽけな野郎の記事なんていらんいらん。みな任原の記事を欲しがっている」
「それに、第一、明日になったら怖じ気づいて土俵に立たないかも知れんぞ」
「そうだよ。調べる必要ないね」
言葉は選んでいますが、異口同音ながらも秀才の考える事は唯一つ、彼らのやり方では調べられないから調べる気がしないのです。
こうして迎えた奉納相撲の当朝、浪子燕青がスーロクタンサ、否、今年限りのサンタクロース・任原を階下に投げ飛ばして、その後の混乱から梁山泊の豪傑の乱入となり、結局燕青という名前が知られないままに大祭当日が過ぎてしまった事は、水滸伝をご覧の方なら御存知でしょう。水滸伝の豪傑が正統な方法で横綱を破ったのだから、皆が瓦版に期待するのは、その本名ですが、この6人にそれを調べろってのが酷な話で、もとより予定記事を印刷する訳にもいかず、かくて瓦版は配達できずに、6人が評判をおおいに落とした事は言うまでもありません。この時以来、瓦版は再び御用聞きの手に渡ったとか。これが秀才の手に戻るには、更に900年に年月を必要としたようです。
ところで、泰山と云えば閻魔庁の分室がある場所ですから、この一件は赤丸付きで閻魔帳に付けられました。件の6人が閻魔様の元で吟味を受けた時に問題になったのもこの件で、それに従って輪廻の先を決められたそうですが、連中の輪廻先に一番相応しい場所として選ばれたのが900年後の日本だったとか。もちろん超エリート、思い当たる節は、、、、。
written 2006-11-28
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5. サンタずもうッス
西暦20xx年、地球の温暖化は留まる所を知らず、ついには救急病棟を除いて冷房の禁止される時代がやってきました。暑いのに冷房禁止というのも奇妙な話ですが、これ以上の温暖化が進むと、金星みたいに熱暴走を起こす危険が出て来たからです。なんでも大昔は金星だって地球みたいな環境だったそうで、それが熱暴走とか云う怖い現象で今みたいな摂氏数百度の灼熱地獄になったとか、もちろん海も全て干上がって生き物は一匹もいません。そんな金星の二の舞に地球がなっては大変ですから、二酸化炭素を余分に出す事や、エネルギーを余分に使う事が一切禁止されたのです。そんな訳でマイカーもエスカレーターもジェット機も禁止されてしました。ましてや冷房なんてもってのほか、暑ければ裸になるしかありません。もちろん素っ裸では風紀に問題がありますから、汗吸いの良いシャツぐらいは着ますが、とにかくそのくらい暑いのです。
そんなけだるい気候でも、いやだからこそ、娯楽の為にスポーツが必要でしょう。もちろん裸で出来る、電気エネルギーを使わないスポーツに限られます。裸と言えば、水泳・相撲にボクシング。このうち一番手軽に出来るのは言わずと知れた相撲でしょう。猫も杓子も相撲相撲で、相撲リーグや相撲くじは勿論の事、どの職場もアマチュアの相撲クラブを持っていて、セミプロ・アマ・ノービスを問わず対抗試合がしょっちゅう開かれています。親睦試合が開かれるのは新聞配達店とて例外ではありません。その昔は草野球や草サッカーなどで各社の配達店同士が親睦を深めたり売り上げ競争に負けた憂さを晴らしたりしていましたが、この時代は草相撲がその代わりを担っています。
その年も忘年会を兼ねた草相撲大会が開かれました。忘年会ですから、仮装して相撲をしようという事になりましたが、そもそも裸でやるべき相撲で服を着るのです。健康に良い筈がありません。だからまともな感覚の者ならせいぜい帽子をかぶるとか奇麗なまわしを付けるとかその程度の仮装しかしないものですが、幸か不幸かその日はクリスマスイブ、サンタの格好をして土俵に上がった命知らずがいました。三太郎と名乗るその男は…。
結果は皆さんのご想像にお任せします。
えっ? これでは物足りないって?
しょうがないなあ。そしたらサンタの話をもう一つしましょう。
ある時、廃業力士に瓦丸九郎という者がおりました。引退と云わずに廃業と云ったのは、幕下止まりだったからです。そして、昔から力士というのは実家が貧乏な事が多いものです。瓦丸もその例に漏れず、廃業した途端に生活に困りました。
しかし、目の出ないうち廃業した者に再就職先が簡単にある筈がありません。今の世は敗北者に厳しいのです。しかも、肥満の敗北者には対しては通常の敗北者の倍以上に厳しいのです。ですから、瓦丸は1からやり直すべく減量を始める事にしました。生活資金すらない身の上ですから、豪華なダイエットプランは組めません。そこで誰もが思いつくのは新聞配達のアルバイトでしょう。生活資金とまではいかなくても、ともかくランニングをしながら少しはお金も入ります。
ランニングの味を覚えた者なら、一度は経験する症候群にランニング中毒というのがあります。急速にランニングの距離を伸ばしたくなる病気で、その為に雨の日も走って風邪を引く者があとを絶ちません。そして、瓦丸もそのランニング中毒にかかってしまいました。もっとも、生活に追われる身ですから、趣味で走る程の余裕はありません。いや、冷静に考えれば、そのくらいの余裕はある筈ですが、悲しいかな、生活に追われているという強迫観念が彼にはあるのです。かくて瓦丸は、ランニングになるアルバイトをハシゴするようになりました。
こうしているうちに年末商戦を迎えます。色々なお店の前にサンタの格好をしたアルバイトが現れる季節です。ぼけっと立っただけでは他店を出し抜く事が出来ませんから、サンタのアルバイトにはパフォーマンスを求められるようになります。そういうパフォーパンスの究極として、今では商店街のサンタが一同に集まってかけっこをするというイベントまである事は皆さん御存知でしょう。ですから、サンタのアルバイトに店の回りをぐるぐる走らせるようなパフォーマンスだってある筈で、瓦丸も見事にそのアルバイトにありつけました。なんせ体付きだけは布袋様と同じですから、採用されない筈がありません。
ですが、これはちょっとやり過ぎだったようです。ランニング中毒の多くが無理して風邪を引いたり腰を痛めたりするのと同じく、瓦丸も分厚い衣装のままに走ったのが祟って、気合いを一段と入れたクリスマスイブの夜、熱中症にかかって倒れてしまいました。発見は翌日。新聞の代わりに彼が倒れていたとか。ああ、可愛そうな瓦丸。貧乏故の、世知辛い世の中ゆえのこの不幸……サンタ苦労ス ルヨ。
三太&九郎s のお話でした。
えっ? これでも物足りないって?
サンタが関取と新聞配達員が同一人物なのが気に入らないって?
しょうがないなあ。そしたらサンタの話をもう一つだけしましょう。
written 2006-12-2
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6. おっきいのちょうだい
ある年の12月第一土曜の早朝、某国某市高級住宅街の小学校のホームページにある書き込みがあった。
『良い子の皆さん』
に始まる文面は、サンタは存在しないと云う大人の常識に対する怒りに始まり、偽サンタとの違いの釈明に続いて、最後にこう結んであった。
『嘘だと思ったら、ここに君の欲しい物を書いて、クリスマスの朝に何が起こるか、君の眼で確かめて欲しい(邦訳なので硬い文章になっています)』
この自称サンタの書き込みには多くの子供たちがレスを付けた。子供どおしの噂は速い。誰か一人でも面白そうだと騒ぎ出せば、メールや携帯で瞬く間に全校に広がるのだ。時節柄、この書き込みはその類い属し、夕方までには全校生徒に近い300人がレスを付けた。掲示板は児童犯罪防止の為に書き込みの記名欄が一切無効となっており、誰が書いたかはサイトマスターにしか分からないようになっていて、それが本当の気持を書き込む障壁を外してくれていたのも、書き込みがヒットした理由の一つに挙げられるだろう。
醒眼なる読者には、これが一種のアンケート、俗に言う市場調査の類いである事が直ぐに分かるだろう。こういう公共の場を市場調査と云う営利活動に結びつける事は、厳密に云えば問題であり、現に一部の親はサイトマスターに書き込みの削除を依頼したが、そういう反商業主義的な彼らですら、週末ゆえに反応が遅れる事は諦めていた。というのも、この種の無記名質問が大抵の親にとって有り難いものであることを彼らとて認めていたからである。たとい無記名のレスであっても、IPは残っているわけだから、後日サイトマスターに自分の子供の希望を聞けば、毎年繰り返さなければならないクリスマスの為の誘導尋問…これに道義的苦痛を感ずる親もいた…をやらずに済むのだ。その程度の情報リークは、サイトマスターの判断で、父兄との2者間秘密として表面上はこっそりとなされていた。もちろん、自宅のパソコンでなく友人宅のパソコンから書き込まれたのであれば、真相をつかむのに若干の難しさがあるだろうが、ここは高級住宅街で、ネット教育に力を入れていることもあって、大抵の子供が朝食前に(週末の朝食は遅い)自室でネットをチェックしていた。だから、大抵の親は、自分の家庭(クリスマスプレゼント)に関する重要な書き込みが予告無しで行われた非民主性には腹を立てたものの、内心有り難い書き込みと感じていた。
事情が変わったのは夜である。明らかに有害と思われるレスが増えたのだ。いくら「有害」用語を自動検閲で排除した掲示板とは言え、そしていかに学校関係者だけしか知らないパスワードの入力式とはいえ、自動検閲には限界があり、パスワードも流出するものであって、レスの伸びる掲示板に異物…隠語とか…が交ざるのを止める事は不可能だった。そもそも小学生の全てが素直な筈がない。日本と違って小学4年生までしか収容しないこの学校にも、ませた、あるいはひねくれた子供は沢山いる。異物はいくらでも増殖しそうだった。
結局、しびれを切らしたPTA役員の一人が、サイトマスターを電話で呼び出して掲示板閉鎖となった。こういう問題の後は、書き込み者のチェックというのが入るものである。もちろん、世が世であれば、これしきの事で調査が入る筈が無い。だが、世は対テロ戦争の時代である。戦局が思わしくない時ほど、調査や検閲も厳しくなるのは自然の成り行きだろう。しかも、そこは某国の高級住宅街の、書き込みをパスワード管理する程の神経質な学校である。風紀への過剰反応は自然な流れであった。従って、自称サンタが誰かという事と、問題用語を書き込んだ者が誰かという事は、風紀に煩い一部の親…PTAを牛耳っているのはこうした輩が多い…にとっては非常に重大な問題であった。
発信元の調査結果が学校関係者を当惑させた。というのも、自称サンタの書き込みが隣国のネットカフェから為されていたのである。当然の流れとして、自称サンタの書き込み主に自ら名乗り出るように学校当局が父兄に連絡したが、その連絡文面が強圧的だったのが祟ってのか、名乗り出る者はいなかった。そもそも、こんな書き込みをするような者が、こんな、プライバシーの侵害ともいえる調査に応ずる筈が無い。もちろん、名乗りを上げない以上、足がつかない自信があったに違いない。
有害用語のレス主の発信も問題だった。その殆どはアダルト隠語で国内発信だったが、唯一「麻薬」と書いたレスだけが国外からの発信だったからだ。自称サンタの発信元と併せて、この事実は学校当局と街の警察を神経質にするに十分だった。それが高級住宅街というものだ。結局、分からない事への苛立ちの解消策として、アダルト隠語の発信者には郵送で警告書が送られた。冷静な人間から見れば笑い話のような対応だが、これが戦時中というものだ。自称サンタと有害レスが外国発信であった事実は、学校に留まらず、街全体…当然ながら高級住宅街の住人に牛耳るられていた…の知る所となり、新聞社説までもがこの件を論じた。
この「事件」が再燃したのは、クリスマスの当朝、レスにあった品物またはその模型が学校の校庭に並べられてあるのが見つかった時だった。日本と違って、世界の多くの国で小学校の校庭は自由に入れる。だから不法侵入には当たらないし、並べられた品物にも危険物は無かったから、落とし物/忘れ物を超える事件ではないが、少なくともマスコミにとっては街最大の「事件」に違いなかった。曰く、自称サンタが並べたのか、物好きの第三者が悪のりして並べたのか? もしも自称サンタとしたら目的は何か? 等々。
件の書き込みは閉鎖前に有名になったから(外国からレスが入る程ではないか!)、その希望リストは公然の秘密として広まっており、どちらの可能性もあった。書き込み元が外国であるという事実はこの際無関係だった。プレゼント自体は一連の話の結末として後味の悪いものではなかったが、物議をかもすプレゼントが含まれていたのも事実で、処方箋なしで買えるその薬には、レスにあった麻薬の成分が微量ながらも入っており、その事が一部のインテリを不安にさせた。しかし、それを除けば見事な悪戯であり、喝采をした者があったのも当然である。街は賛否両論に分かれ、徹底究明を主張する風紀派と夢やユーモアを主張する自由派が拮抗するようになった。
目撃者はなかった。これがスラム街ならクリスマスイブといえども人通りがあるが、高級住宅街に住むような中流上位階級の人間は、クリスマスイブに家庭団らんを楽しむのがルールである。車の目撃者すら無かった。警察としてはお手上げである。こんな上品な、誰にも迷惑をかけない悪戯を徹底的に捜査するほど暇ではない。一通りの聞き込みを済ませた後はさっさと迷宮入りにしてしまった。
翌年、別の都市の高級住宅街の小学校の掲示板で、全く同じ文面の書き込みがあった。類似の対応を経て、掲示板は早めの閉鎖されたが、それでもこの時の希望リストに「○月×日の盗聴記録」という奇妙なリクエストの加わる事を止める事は出来ずに、前年同様の調査が入って、二つの書き込み…自称サンタと盗聴記録のレス…が外国からである事が確認された。ただし、書き込みのなされた国は前年とは違っていて、前年の事件との関連性を知る為の手がかりとはならなかった。
去年の今年、しかも最重要書き込みがどちらも外国だった事から、街全体の関心を呼ぶに十分だった。結末を見届けるべく、風紀派自由派双方がクリスマス当朝に小学校の物陰に潜む事となったが、裏をかかれて、学校の対岸の堤防にリクエストされた贈り物が置かれた。注目の的の盗聴記録は、見事にプリントアウトされて、その真偽こそ機密保持の壁に遮られて確認出来なかったものの、プリントアウトに代議士の名前の挙がっていた事から、たちまち全国の注目するニュースとなった。
ここまで事件が拡大すれば、本来なら機密漏洩容疑で警察庁が捜査に乗り出すべきだが、何故か「漏洩かどうか分からない」との論理でもみ消された。背後に大物政治家が存在すると誰もが思ったが、いかんせん、この手の噂はこの国では日常茶飯事で、名前の挙がった代議士がトカゲの尻尾として辞任して一応の幕が引かれた。もちろん、物好きの詮索はいろいろあり、例えば、前年の悪戯にヒントを得た内部告発者が芝居を打ったという見方と、代議士の所属する党内の権力が反主流派に移った事に伴う粛正の一環という見方とが有力だったが、盗聴記録にアクセスしうる全ての人間を調べると全員ホコリだらけで、しかも渦中の政治家の辞任で告発すらなかったので、真相が明るみになる事は無かった。
3年目とはあらゆる意味で正念場である。スキャンダルや内部敵を持った全ての政治家が戦々恐々とし、世の中の野次馬は自称サンタの次の動きを待った。もちろん書き込まれる可能性のある全ての小学校サイトではシステムが徹底的に補強され、レスともども書き込み直後に逆探知できる体勢をとった。だが、努力は無駄に終わり、政治家の心配は杞憂に終った。それは書き込みが無かったからではない。それどころか、今回の書き込み事件は、政治家の心配を遥かに超える騒ぎを引き起こしたのだ。
まず、自称サンタの素性はまたしても調べきれなかった。というのも、その時は書き込み元が北欧フィンランドのネットカフェだったからである。プライバシーに煩い北欧諸国が、この程度の善意いたずらの身元調査に応ずる筈がない。一方、レスの方も普通の子供らしいレスは直ぐに学校の児童であることが分かったものの、いきなり登場した極めて危険なレスだけは逆探知のしようが無かった。それは、まさに対テロ戦争の戦場になっている某国であり、そのレスは、国際的に有名な組織名を自己紹介をした上で、爆発させる事のできる原子爆弾を希望していた。しかも、とりわけおっきい奴をという注文付きで(active atomic bomb, BIG please)。
この書き込み騒動が報道されるや、国民の殆どは、言いようのない嫌な気分に襲われた。もちろんサンタが実在してテロリストに原爆を渡すなど有り得ない。だが、サンタが実在しようがしまいが、何かの拍子でテロリストに原爆が渡ってしまったら大変であり、いったん口に出してしまった事柄は、言霊として実現してしまうのではないかという不安を大抵の人が持っていたからである。いかに99.99%大丈夫だろうとも、万が一という事もある。現に、過去2年に渡って配達されたではないか! 「万が一」という不安を大きく増幅させるだけの効果を今回のレスは与えていた。
一旦世論が暴走すると、あり得る筈も無い「万が一の可能性」が、あたかも起こりうる可能性としてクローズアップされる。というのも、どんなに馬鹿げた可能性でも、それが起こらないと証明するのは殆ど不可能だからだ。過激な世論というのはその一点だけに固執するものだ。
「絶対無いと言い切れるか? 確かに本物のサンタはいないかも知れない、しかし、、、」。
という論法で。
この『しかし』の後ろに続くシナリオが空っぽでも、この論法で世論は十分に暴走する。それは別に驚くべき事ではない。イラク戦争の前に原爆の証拠が全く見つからなかった事を思えばよいではないか。現地に入った国連関係者は口を揃えてアメリカを諌めた。実際、原爆どころか化学兵器も生物兵器すらも存在しなかった。にも関わらず、
「だが、しかし、、、」
の論法で戦争は始められ、泥沼にはまった。しかも、この侵略を目の当たりにした複数の小国が、侵略抑止力としての核兵器の必要を確信するに至ったというおまけまで付けて。
かくて、書き込みから僅か2週間後には、
『サンタと名乗る何者かによってテロリストに原爆が渡る可能性』
ひいては
『サンタと名乗る何者かによって原爆が落とされる可能性』
がテレビや週刊誌で真剣に論じられるようになった。そう、あたかも、かなりの確率で起こるかのように。
不安はスケープゴートを求める。その流れを作ったのは、テレビのコメンテーターだった。
「小学校サイトの掲示板は閉鎖すべきだった」
情報の公開と表現の自由を自ら放棄するような時代錯誤の意見である。もっともコメンテーターの中には、右左関係無しに、他人と違う極端な意見を出す事に売りにしている者が存在するのであり、こういう愚かな意見が出て来るのは仕方ない。問題は、無視されるべきこの発言内容が無視されなかった所にある。というのも、インターネットを権力のコントロール下に置きたがる利権集団にとっては渡りに船だったからだ。情報操作に長けた彼らが馬鹿コメンテーターの発言を見逃す筈が無かった。そうでなくと、不安を最大限煽って個人の尊厳を制限するのが権力の常道だ。米国で公安による盗聴が認められたのも、イギリスが監視カメラでプライバシーの無い国になってしまったのも、全てはイラク戦争のお陰ではないか。さっそくテレビにサクラがバラまかれた。
やらせ発言で注意しなければならないのは、本来狙っている事をストレートに云わない事であり、サクラの仕事はあの手この手で攻撃対象のイメージダウンをする事にある。例えば、些細な規則違反…効率とか人道をかを考えたら絶対に正しいと云えるような行為の事だって多い…をあたかも汚職よりも重大な事件であるかのように大々的に宣伝したり、因果律の裏付けのない相関…大抵の事象が時間変化だけ見れば相関しているように見えるのであって例えば物価と核兵器保有国数とエイズ患者数だって全て十年毎に増えている…に勝手に因果関係を決めつけて不安を煽ったり、99%有り得ない可能性…バブル時代には財テクだけ一生左団扇の生活が得られると期待していた日本人は多い筈だ…を誇張したり、或いは全く関係無い道徳論…インターネットはある種の宗教の道徳に反するかもしれないが全国民の道徳ではない…を振りかざして懐古主義的に説教したり、ともかく、この種の情報操作には多くの技術がある。
イメージ宣伝だけでなく世論誘導もサクラの仕事だ。例えば
「サンタを容認する社会だから、核兵器がテロリストに渡る可能性が生まれた」
とかいう論理的に破綻した意見がそれだ。これは明らかに
「サイトが存在したから、核兵器が落とされる可能性が生まれた」
という、これまた論理的に破綻した意見を呼ぶ為の誘導である。そして、いずれの破綻論理も、冷静さを失った国民から支持を受け、テレビによって繰り返された。世の中には、言霊を信じるまではいかないにせよ、不安に思っている人が多いものだ。しかも、この話題は対テロ戦争でカリカリしたこの国では確実に視聴率を稼げる!
影響は新聞にも及んだ。いかに基本スタンスが
「冷静な行動を市民に求める」
であろうとも、新聞はその性格上、バランス尊重という名目で、サンタやサイトの問題点を少しは書かざるを得ない。
「こういう欠点もあるだろうが、ここは冷静に考えて、サンタ排斥のような愚行をすべきでない」
それが社説だ。いかに「冷静に」という論を張ろうとも、サンタやサイトの問題点をあげつらう役目を果たしたに過ぎなかった。商業主義の賜物であるそれは、知らない人間からの贈り物を受け取る風習としてテロの温床になり、クリスマス当日の盗難を容易し、良い子にさえすれば努力無しで欲しい物が手に入るというコンセプトで怠け者を生む、等々。子供に愛されるべきサンタですらこの有様だから、大人の趣味たるサイト掲示板に至っては云うまでもない。
商業資本はどうか? サンタがいなくなると一番困るのは彼らではないか? こんな、反サンタキャンペーンを見過ごすのか? だが、彼らは知っている。泣く子と地頭には敵わない事を。世論には必ず揺れ戻しがある事を。サイトとサンタと両方攻撃すれば、間に挟まれたサイトだけが地頭にひれ伏すだろう。揺れ戻しによってサンタは更に大きく復活する筈だ。
権力の意向を受けたサクラとおせっかいな新聞と冷静さを失った一部国民の相乗作用で話題は一気に沸騰した。
『サイト掲示板は管理が必要だ』
『サンタは危険だ』
『このままではテロリストに原爆が渡る!』
『それどころか、原爆が落とされるかも知れないぞ!』
等々。高みに立っているつもりの論説委員ですら、いつしか暴走の一翼を担っていたのだ。但し、傲慢なお国柄か、国内に大量に抱える原爆が侵入者によって爆発してしまうかも知れない自業自得の可能性だけは何故が言及されなかった。それはタブーだったのかも知れない。
かくて、権力利権は、サイト運用に口を出すという新たな利権を獲得する道筋をつけたものの、同時に暴走世論を止める為のパフォーマンスに迫られた。そう、彼らは、サンタと名乗る謎の人物がテロリストに原爆を渡すのを…国内で爆発させるのを…確実に止めなければならないのだ。あたかも、フセインが原爆を使用する前にフセインを潰さなければならないように。
政府は、現存するサンタ追跡国際部隊
NORAD
を更に充実させると発表し、加えて国内における12月24日深夜の全ての飛行機の航行を禁止した。それは、飛行機が生活必需品や新聞を運ぶ僻地に置いて、飛行機が飛ばない事を意味していたが…冷静な者たちや新聞愛読者は憤慨したものだ…国家危機という名目のもと是非も無かった。もちろん陸海空軍にもスタンバイの命令を下された。クリスマスイブだと云うのに! もっとも、軍トップはもとより政府だってこれが馬鹿げた事は分かっているから、実際の警戒レベルが大きく上がるとは思えなかったが、それでも、せっかくのクリスマスを台無しにされた将校兵卒がいた事は確かだろう。
近隣諸国から見たら奇妙としか思えないクリスマスはこうして始まった。
一方、如何に世論が暴走しようと、冷静な者がいない訳ではない。そして、彼らは彼らなりに、この馬鹿げた事態を終結させる方策を考えていた。それが先進国というものだ。
理性に訴えると云うオーソドックスな方法…殆どの「冷静な」人間はそういう方法しか思いつかなかった…が無駄なのは歴史が示す通りである。冗談には冗談で返す、これが基本である。そう思った一部の連中は、サンタの死を演出する事を考えた。しかも咎められない方法で。
…コメディアンにサンタの格好をして目立つ所で「くたばって」貰ってはどうか?
…トナカイと橇も付けてやろう…こっちは本物で
…橇にリクエストの品物…もちろん原爆以外だが…を入れなきゃ
…原爆の代わりは何にしよう?
…現役のでっかいやつって要求だったぜ
…じゃあ、サンタ役を肥満の奴にやって貰えば代わりになる!
…そこまで来たら、格好も凝りたいな
…それなら唯一の被爆国を思い起こさせる格好だ!
12月25日のテレビは、どのワイドニュースもある画像を繰り返し流した。そこでは廻しと赤い上着という奇妙な格好の肥満コメディアンが死んだ振りをして、こう叫んでいた
「おっきいぜ(PIG)!」
そして緒八戒の仮面を被っていた。
祝 亥年!
written 2006-12-16~2007-1-7
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