天からの贈り物
その1
その2
その3
その4
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その1(500字バージョン)
この人物は危険すぎる…。
彼はいつもその事ばかり考えていた。
かの人物が何者であるかは分からない。ただ分かっているのは、常に我々の油断をついて侵入してくるという事だ。どんなに精巧なセキュリティシステムを組もうとも、鉄壁の要塞を作ろうとも、かの者はやすやすと我々を調査し、そして、我々のワーキングエリアに、製造元すら不明のモノを『貴方が選ばれました』と言う添え書きと共に置いて行く。その侵入経路は分からない。ある者は電線であるといい、ある者は排気口であるという。忍者顔負けの技量だ。
それほどの強者から逃れるには、無人島で原始生活を営むしかあるまい。そんな事が誰に出来よう。となれば…奴が危険物を置いて行くのを阻止出来ないのなら、唯一の現実的な対抗策は、中身を見ずに、否、外見すらも見ずに、完全防備の処理室に持ち込んで捨てる事だ。それにはかなりの勇気を必要とし、往々にして心を鬼にしなければならない。というのも人は好奇心に弱いからだ。敵はその心理を見事についてくる。
今年こそ負けるまい…強い決意を固めた男の子は、12月25日の朝、樅の木の壁紙のもとに置かれた『箱』をじっと睨み続けていた。
written 2005-12-18 (revised 12-30)
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その2(1000字バージョン)
この都市は危険すぎる…。
彼はいつもその事ばかり考えていた。
世界一の都市にするべく、線引きも測量も全て済ませた。交通がスムーズに流れ、災害に強く、しかも歩行者や社会的弱者に優しい都市。世界の首都に、理想の都市は一つもない。だからこそやりがいのある仕事だった。青写真が出来れば、次は法律だ。これも30年がかりで整えた。消防法や建築基準法、鉄道法を始め、都市計画に関係する全ての法律はこの青写真を下敷きにしていた。
理想の都市を造るには、もちろん更地が必要だ。虫食い状態で民間ビルが生き残っては、某震災都市と同じく、カオスのままで再生する。皆が諦められるよう、悉く崩壊させなければならない。都市づくりは千年の計、たかが百年しか寿命の無い連中に気兼ねする訳にはいかないのだ。その為に安全検査を規制緩和したが、さすが阿吽の呼吸の土建業者で、その意を解して多いに協力してくれた。
たとい全てがシナリオ通りに行って更地が出来ても、世界の同情が集まらなければ、いざ都市を造る段になって資金が足りなくなる。その為に、わざわざ某大国の奴隷であるかのように振る舞った。これはお手の物だから取り立てて苦労はない。某大国の兵に地位協定という治外法権を認め、しかも膨大な金をコクサイという紙切れと交換に毎年貢いでいる。直接の奴隷ではないから市民は文句を言わない。
一方、世界の同情が集めつつも、肝心かなめの『奴ら』が、この都市の住民に同情するあまり、行動に移してくれなければ意味が無い。地震だけでは不十分な更地しか出来ない事が10年前に判明して以来、これが最大の課題かつ困難事だった。というのも、我々凡人は、ついつい隣人・隣国の事を慮ってしまうからだ。しかし、今や長年の苦労が熟して、都市の長も国の長も挑発的言動を繰り返し、警察も言論狩りに専念して挑発の補佐をしてくれる。もはや同情の余地はない筈だ。あとは『奴ら』の行動を待つばかり。
もちろん、この国において侵入はたやすい。セキュリティーという概念の無い事は、民営化された鉄道と上場を目論む証券市場が十分に示してくれた。これ以上『奴ら』好みの国が何処にあろう?
彼は確かにやるべき事はすべてやった。だめ押しに、国際的に超有名な神社に毎月参拝していた。これで長年の願いが叶わなければ、天を恨むに違いない。その日もいつもの願いを繰り返していた。
『さあ、このカオスを更地に戻してくれ。バクダン1個あれば十分な筈だ』
written 2005-12-24 (revised 12-30)
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その3(温暖化バージョン)
この気候は危険すぎる…。
彼はいつもその事ばかり考えていた。
元はと言えば、積雪の確率が年々低下している事が問題だった。というのも、寒くて暗くてしかも白く閉じ込められた冬こそが、仕事を遅滞無く遂行させる為の必須条件だからだ。現に彼の相棒に至っては、ひとたび太陽と緑を目にするや、すっかりハイになってしまって、自分の世界に没頭してしまう。いや、これは相棒に限るまい、誰にでも経験があろう…。
もちろん彼だって、雪に閉ざされた世界を好きな訳では無い。それは雪国に住むものなら分かる筈だ。しかし、どんなに雪が生活の障害になろうとも、どんなに雪が災害をもたらそうとも、人は少しづつ雪と共生する知恵をつけてきたのだ。それがヒトとサルの違いである。彼の仕事とて、この知恵と無縁ではない。だから雪の無い世界に彼の未来は無かった。
だが、歴史は逆に進む。東京の過去百年の統計を見るまでもなく、近代の歴史は雪を忘れてきた歴史だ。都市といわず人といわず、雪は生活から遠いものとなり、レジャーと災害の対象としてしか残らない。それが近代であり都市である。そうして、温暖化の路をまっしぐらに進むのだ。この事実に、知恵の結晶とも言うべき彼は、今更ながらに戦慄していた。雪の無い世界に人類の未来は無い
積雪の確率が年々低下する理由については色々な説が取りざたされている。都市化、地球温暖化、異常気象、、。しかし、今の彼を一番困らせていた理由は、雪の降らない土地すら続々と都市化している事だった。彼にはNIESからも出張先要請が来ていたのだ。常夏の国での彼は、岡に上がった河童さながらである。真っ赤な花の咲き乱れる土地では、せっかく目立つようにデザインされた制服も全く映えず、雪が無くては重い荷物を運ぶ為の橇も使えない。彼は布袋様のような力持ちではないのだ。
新興大都会の近くの小島に不時着した彼は、若草を食べる続けるトナカイの横で、降る筈もない贈り物を祈って天を仰ぎ続けた。
written 2005-12-30
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その4(国際物理年バージョン)
この世界は危険すぎる…。
彼はいつもその事ばかり考えていた。
犯罪、独裁、脅威、、、これらを根絶やしにするには、究極の力が必要だとBG氏は信じていた……国連のような烏合の衆では脅威は無くならならず、明らかな危険国家すら野放しにされている、だから力ずくで『善』を世界に広め、力ずくで核兵器を廃絶させるに限る……。
そこで彼は壮大なプロジェクトを組んだ。それは反物質の塊を作る事である。それをするだけの金と人のネットワークが彼にはあった。反物質とは、その名の通り物質に出会ったら消滅してしまうマイナスの物質だ。これなら確かに核兵器も敵わないだろう。要するに地上から核爆弾を消滅させ得る究極の兵器である。
反物質の塊を作るメリットはそればかりではない。それは人類の、そして科学の発展を意味する。素粒子の世界ではごく普通に発生する反物質ではあるが、発見から80年近くが経つのに未だに反物質の塊を作る事には成功していないのだ。だからプロジェクトは科学技術の高度な発展を要求していた。アインシュタインの名が冠されたそのプロジェクトの遂行に当たっては、もちろん軍事という言葉を一切使う必要が無かった。人類の夢と幸福、その言葉だけで十分だったし、BG氏自身がそう信じていた。
シンクタンクの考えたプロジェクトでは、精緻な月ミッションと宇宙ステーションミッションを必要としていた。とにかく普通の物質に出会ったら消滅してしまうのである。素粒子ならともかく、反物資の塊となると真空度の極めて高い所でなければ作れないのだ。地上の真空室といえども真空からほど遠い。真空室より遥かに条件が良いとされる宇宙ですら、太陽風というプラズマが吹き荒れていて、それは毎秒確実に生成された反物質にぶつかり、反物質の精製を妨げる。
白羽の矢のたったのは月の夜側であった。そこだけは太陽風も入りにくい高度の真空となって反物質を保持出来るからだ。そこにエネルギー…光である…をうまく寄せ集め、しかも集められたエネルギーを凝縮すべく、壮大な宇宙プロジェクトが組まれた。多くのロケットが打ち上げられ、無人宇宙ステーションが組み立てられ、そうして、宇宙空間に反物質工場が建設された。世界中の誰もが、このプロジェクトを遂行するBG氏を賞賛した。
やがてプロジェクトは成功し、キログラム単位の反物質が製造された。
それはBG氏が世界の覇権を握った事を意味した。というのも、反物質と物質が出会うと、それらは単に消滅するだけでなく膨大なエネルギーを生み出すからである。たった1グラムの反物質が1グラムの物質に出会うだけで、広島型原爆の倍以上のエネルギーが放出されるのだ。1キログラムとなればマグニチュード8以上の大地震に匹敵する。
もはや国連の議論を待つ必要は無かった。BG氏は厳かに世界中に命令した。
『核兵器を廃絶せよ』
『普通選挙による民主主義以外は認めない』
『地球温暖化の原因は我が国以外にある』等々。
青天の霹靂とも言えるこの変化に世界は色めき立った。新聞テレビは反物質弾の脅威を大々的に伝え、国民は怯えた。いくら科学者や冷静な人々がBG氏を無視しろと忠告しても、そんな声は何処にも届かないものだ。多くの国が彼にひれ伏した。
その一方で、それでも言う事を聞かない国というのは出るものだ。そこで見せしめに、反物質弾がその『ならず者』国家に投下される事になったのは当然のいきさつである。投下の警告が出され、最後通牒として投下予定日が発表された。人々は対象国の空に反物質弾が落ちてくる日を指折り数えて、ある者は祈り、ある者はあざ笑った。
ついに『ならず者』国家を懲らしめる日が来た。それは或る月の新月だった。新月が選ばれたのは、誤差を最小限にする為である。というのも反物質弾は通常物質からなる太陽風や太陽光を嫌うからだ。だからこそ反物質弾は月の夜側で精製された。
反物質弾は外気圏に入り、極めて薄くとも確実に存在する空気にぶつかり続け、激しい光とともに消耗し、見た目には美しい流れ星として空中に霧散した。それはシナリオ通りである。その時に発生するエネルギーが爆風や放射線となって、その下の国を襲うからだ。
だが、反物質弾はその目的を果たす事は無かった。
確かに閃光が光り、確かに気象に影響は与えた。しかし、同時に、その際のエネルギーは反物質弾の軌道を数千キロ曲げるのに十分だったのである。BG氏の得意とするいつもの誤爆である。いや、情報不足と言うべきであろうか。というのも、この結末は科学者が予想していたからである。物質ー反物質反応という、とてつもなく大きな空気抵抗のもとでは、反物質弾の軌道は遥か上空からカオス的になるのだ。ただ、新聞もテレビもそれを伝えなかっただけの事である。
反逆国の代わりにダメージを受けたのは属国である。それを失ったBG氏には莫大な赤字だけが残った。
written 2005-12-31 (revised 1-02)
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